本日、「漫画家の卵を応援する勉強会」というイベントに参加してきました。非常に面白かったです。
個人的には、子供の頃はアメリカ在住でマンガがあまり読める環境にありませんでした。たまに日本から漫画を送ってもらった子がいると、読ませてもらうぐらい。その反動か日本に帰ってきてからはめちゃめちゃ漫画を読みまくりました。就職してからだいぶ漫画から離れてしまいましたが、愛は変わりません。
国内外で日本の漫画は広く愛されているわけですが、漫画家さんが必ずしも儲かっているとは限りません。
まゆたんブログとか見るとすごい豪勢なのですが、こういう方はごく少数。例えば「ブラックジャックによろしく」や「海猿」の作者である超人気漫画家の
佐藤秀峰さんでさえ、年間450ページ程の原稿を描いていて、原稿料は約1600万円だそうですが、スタッフの人件費や保健料などコストが年間約1800万円もかかっているのでとんとんとのこと。ほかにも作品毎に原稿料がどれだけ入ってアシスタントの人件費がどれだけかかったかをサイトで公表している漫画家さんもおられましたが、手元に残るお金はわずか、そして時には赤字にもなっていました。。。
海外に行くと日本のマンガやアニメは至る所で目に入りますが、それらは本当にアニメーターや漫画家の収入に貢献しているのかというと疑問が残ります。
面白い漫画家を増やすには。面白い漫画を描く漫画家が幸せになるには。ウェブ漫画、iPhone漫画アプリが増え、Kindle、iBooksやiPadの登場で漫画の読み方も変わっていく中、漫画界はどうなっていくのか。この勉強会が色々考えるきっかけになれば。
モバキッズの
田村さんの講演。
mangarooとはオリジナルマンガの投稿&共有サイト。マンガをアップできて、読めて、ブログ等の外部サイトへに貼り付けたりTwitterで広めたりすることができる。
同人誌を見てそのクオリティに驚いたのがきっかけ。
今はウェブ経由でヒットする漫画家も出てきている。
投稿作品は全て目を通す。1日2~3作品くらいで、現在200作品位が投稿されている。作家数100人程度、平均2作品。作家含めて1000人程度の読者がいる。月に作家20人、読者200人の増加中。
mangarooはあくまで配信する場所を用意してるだけで、著作権の管理は一切してない。出版は出版社で。
pixivとのすみわけ→pixivは二次創作がメイン。mangarooはオリジナルがメイン。
mangarooでできることの可能性:
・マンガの有料販売を手軽に
・出版デビュー?
・試し読みをネットで
・みんなでストーリーを考えるマンガ
・クラウド翻訳
念のためトキワ荘とは:
東京都豊島区南長崎三丁目に1952年から1982年にかけて存在した木造アパートで、手塚治虫さん、石ノ森章太郎さん、赤塚不二夫さん、藤子不二雄さんほか多くの漫画家が住んだため漫画家の溜まり場に。その後かつての居住者達が有名になり、漫画家の「聖地」と呼ばれるようになった。ちなみに女性版トキワ荘とも呼ばれる大泉サロンには竹宮惠子さんや萩尾望都さんが住んでいた。
トキワ荘プロジェクトとは:
漫画家志望の若者に格安で住居を提供することで、クリエイターとしてのスタートアップ期を支援するプロジェクト。
漫画家を目指す人の8割が地方出身だが、地方にいると漫画家を目指している同志すら見つからない状況。また、出版社も漫画家も東京に集中しているので東京に居た方が仕事も多い。アシスタントも地方では見つからない。だが、いざ東京に住もうと思うと東京の家賃は高い。そこで漫画家を目指す若者向けに安価に住居を提供しているのがトキワ荘プロジェクト。現在、一軒家を16軒借りており、80名ぐらいが入居している。コンセプトは「同じ志をもった人が一緒だからがんばれる。」2016年末に定員300名のクリエイター支援が目標。
トキワ荘プロジェクトに入るメリットとして、先輩がデビューして自立していく場を見て追体験できる。また、トキワ荘プロジェクトは出版社にも認知されており、出版社からの仕事の依頼なども来たりするので、仕事の仲介なども行っている。デビュー率は1割程度。
入居者は平均23-25歳ぐらい(原則18歳~29歳)で、女性の方が多い。期限は3年だが、出るタイミングは本人次第。入居の際は面接を行う。本気でマンガを書く気があるか?共同生活が出来るか?家賃払えるか?等をチェック。マンガを描かずにサボっちゃう子もいるのでは?との質問には、周りがみんなマンガを描いているので遊んでいる子は居づらくなるのでは、とのこと。
漫画家としてのサバイバル能力を身につけてほしいと願っている。折れない心か、折れてもすぐに立ち直れる心が漫画家の卵には必要とのこと。
トキワ荘は10軒で入居率が9割を超えれば損益分岐点を超える。現在既に16軒借りており、不動産ビジネスとして成り立っているとのこと。(物件によって条件が異なるが、だいたい敷金・礼金無し、水道・光熱費、家具・家電、インターネット回線料込みで月4~5万円ぐらいのもよう。実質家賃は2~2.5万円相当とのこと)漫画家以外のジャンルでの低家賃住宅支援も検討中。
tips:
トキワ荘では漫画家の卵に寄付する漫画や資料の
募集もしているようです。寄付できるものがある方は是非。
ギークハウスをやっておられるphaさんとはお話されているそうで、トキワ荘版ギークハウスができるかも?
トキワ荘以外にも下記のプロジェクトを行っているが、事業として成立しているのはトキワ荘と中退予防研究所のみ。
漫画だけじゃなくて色々な切り口で若者を活かす道を探るべく頑張っておられる。。。!
iphoneでマンガが読めるアプリ。株式会社新の
村上さんによる急遽の LT でした。まだ申請中なのでapp storeには並んでいないようです。
レベニューシェアの割合は漫画家が5割、Appleが3割、comicgarageが2割。
30-40ページ100円、多言語対応して海外へも配信予定とのこと。
ソクラさんの講演はスライドが漫画で、トークも軽快で面白く、是非動画の方を見て頂きたいです。(
えxぺサイトのどこかにアップされるに違いないと信じている!)文字ではうまく伝えることができないですが漫画家として子供の頃から人生を振り返って語ったお話は超面白かったです。
描くこと=自分の目との闘い
見せること=他人の目との闘い(担当さんの目、編集長さんの目、読者の目)
続けること=人と機会と実力がそろわないと連載は取れない
掲載までのステップ
1.担当さんがつく(持込するor賞を取る)
2.担当さんにOKをもらう←中ボス
3.編集長にOKをもらう←ラスボス
4.掲載枠が開いたら載る
(5.読者にOKをもらう)←真のラスボス
賞を取りたいならば描きたいものを描くこと。一コマでいいから魂を込めて描く。
しかし自分が書きたいものを読者が読みたいとは限らない。
担当さんと書き手の相性・マッチングの問題も。。。
マンガ界、マンガ産業そのものを拡大していかないといけない。
● 萩原嘉博さん(現在はスクウェアエニックスにお勤めの、マンガ編集者さん)
※なお、本講演はあくまで個人的な感想であり、会社の立場を代表してのコメントではありません、とのこと。
マンガ編集について知りたい方は、「バクマン。」、「編集王」、日本橋ヨヲコさんの作品、「大東京トイボックス」を読むとよい。
経歴:
エニックスバイト→アンケート葉書集計・キャラ人気集計・原稿取り・校了準備など。
ちなみに当時のバイトの同期が現在「少年ガンガン」編集長・「ガンガンJOKER」編集長。
大学を卒業してエニックス入社→少年ギャグ王にて「ポケモン1Pマンガ劇場」や「トルネコ一家の冒険記」等担当。
当時のエピソード:コミティアで「最遊記」に惚れ込み、商業誌連載を依頼。編集部が異なる「Gファンタジー」編集長にかけあって実現。(知らない方のために念のため。
最遊記シリーズとは西遊記をモチーフにした大人気漫画でOVA、テレビアニメ、ミュージカルなど多角展開をした大ヒット作。これをコミティアで見つけて商業誌で出るようにした萩原さんは本当に素晴らしい。)
エニックスを離れ、色々転職→マンガとアニメのポータルサイトMANGAZOOの編集長に。
当時のエピソード:新海誠さんの「彼女と彼女の猫」をコミケで買えずに悔しかったので、「もっとたくさんウチで作りましょうよ!」という話をしにいき、CD-ROM製品版発売に。また、ちょうど「ほしのこえ」を作ってる時期で、「ほしのこえ」も手がけることになり、大ヒット。(知らない方のために念のため。
新海誠さんとはアニメ作家・映画監督。代表作の「ほしのこえ」は、監督・脚本・演出・作画・美術・編集などほとんどの作業を一人で行った約25分のフルデジタルアニメーションで、めちゃめちゃクオリティが高く美しい。第1回新世紀東京国際アニメフェア21公募部門・第7回アニメーション神戸・第6回文化庁メディア芸術祭 デジタルアート部門特別賞・第34回星雲賞 メディア部門・第8回AMD AWARD BestDirector賞など多数の賞を受賞。予告編は
こちらで見られます。その新海さんをコミケで見初めて商業ベースで出るようにした萩原さんは本当に素晴らしい。)
スクウェア・エニックスに編集者兼ウェブディレクターとして戻り、「ヤングガンガン」の「咲- Saki-」の立ち上げを担当し、
ガンガンOnlineの立ち上げに関わる。なお、ガンガンOnlineのビューは好調で、コミックスの売れ行きとほぼ相関するとのこと。
(知らない方のために念のため。実は私も読んだことがないのですが、「咲- Saki-」とは萌え絵な麻雀漫画で昨年4-9月期にテレビアニメ化もされた人気漫画。ガンガンOnlineは漫画界としては画期的な無料オンライン漫画サイト。無料で読むことができ、会員登録も不要。雑誌からオンラインに移った作品もあり、人気作家も参加している。正に萩原さんってSUGEEEE!である。)
Q雑誌って読みたくないものだらけで不要なのでは?
A雑誌は本当はお得です!ページ数から考えたら超お得。そもそも出版社的には雑誌は儲かっていないというのは皆さんご存知の通り(単行本で元を取っている)。それでも売っている雑誌は読者にとっては超お得。自分は雑誌を買ったら元を取るべくお目当ての作品以外もみんな読む。是非皆さんもこのお得な雑誌を買ってください。
Qなぜフリーの編集にならないのか
A妻がフリーの編集なので。夫婦ともにフリーになるのはやばいと思って。
Q電子出版の普及で編集や版元の役割はどうなる?
A電子出版での細かい売上情報・傾向などの情報を元に、効果を最適化するよう、作家が出来ることが増えると思う。例えば、電子出版でこんなに売れたからもっと売ってとか。名古屋で売れてるから名古屋の書店にもっと置くとか。作家が作品の内容に折り込んでいくこともできる。東西線で売れてるので、東西線ネタを折り込むなど。
Q漫画の国際展開について
A海外の作家の作品を日本で売るということと、日本の作家の作品を海外で売るという両方がある。
前者について、韓国の作家を日本に持ってくる仕事をやった。絵柄は日本でもいけるクオリティなのだが、センスが微妙に違うので難しい。浴びてきたマンガ環境が違う。
後者については、まず縦組み横組みの問題がある。ただし、携帯やフラッシュムービーなら読みやすいだろうし、日本のマンガはそういうものだということで既に定着しつつあるので問題ないだろう。より大きな問題は、現在は日本ファンの人たちが日本のマンガを読んでいるに過ぎないということ。村上春樹のように、作品単品として読まれるようにはまだなっていない。
Q海外展開でオノマトペは?
A韓国人は凝り性なので、全部書き換えられている。英語版では日本語のままで下に訳がつけられている。
Qウェブ漫画のマネタイズ?
AガンガンONLINEは無料で始めたので無料で行く。PVが多くて必要になったAkamaiの料金は確かに安くないが、会社で(他の事業も含めての意)使っているのでコストは微々たる物になるため、なんとかなっている。
Q無料で出して売上は上がったか下がったか
A上がった。というか無料でオンラインで見てもらって気に入ったコミックスは買ってもらう形式なので。
Q無料配信の原稿料は?
A多分雑誌と同じだと思う。雑誌から移ってもらった作家さんもいるので、同様でないとまずいと思う。
萩原さんは良い作品を見つける審美眼と、漫画への愛と情熱と、培ってきた人脈と、行動力とエネルギーをフルに使い、また編集者としての視点と読者としての視点をどちらも忘れていないすごい編集者だなあと思いました。コミティアやコミケ等に行って素晴らしい作品を見つけて、それをちゃんと商業ベースで成功するところまで手伝っているところも素晴らしい。しかも「最遊記」のときなんて「Gファンタジー」は自分の編集部じゃないのに持ちかけていって。エニックスを辞めたときも韓国おたくツアーに参加して、韓国の漫画のクオリティの高さに驚き、税関で止められるほど大人買いして帰国し、つてを辿って韓国漫画家の売込みを行って雑誌に掲載されるようになったりとか。
漫画については改めて記事を書きたいと思いますが、取り急ぎ今日の勉強会のれぽはこんな感じで。
[this is good] I congratulate, a brilliant idea
Posted by: Mervyn Phillips | 05/05/2010 at 08:43 PM